Chapter 12「愛しているから選んだ距離」

この物語はシリーズでお届けしています。
Chapter 1:出会い から読む


愛しているのに、近づきすぎてはいけない人がいる。
心は彼を求めても、現実はいつも私に境界線を突きつける。

「もし、出会う時期が違っていたら」
「もし、彼が独り身だったなら」

何度もそんな“もしも”を思い描いた。
でも、その答えが現実になることはない。

だから私は決めた。
愛しているからこそ、踏み越えない距離を守ろうと。
それが、彼と彼の大切な人たちへの、せめてもの誠意だった。

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守るべきもの

あの頃の私は、ただ彼が好きで、会うたびにその想いが膨らんでいった。

どんなに状況が複雑でも、どんなに未来が見えなくても・・・彼に会うと、理屈より先に心が反応してしまう

「もし出会った時期が違ったら」

「もし彼が独り身だったら」

そんな“もしも”が何度も頭をよぎった。

けれど現実は残酷で、彼には家庭があり、私とは違う世界がある。

彼は何度も言った。

「家庭は壊さない。嫁も、君も、どちらも大事なんだ」

その言葉を聞くたび、私は彼と結婚する未来を自分の中で封印した。

彼を失いたくないからこそ、その選択をしたのだ。

そしてもう一つ、私の中で決めていたことがある。

それは、彼の家族への最低限の敬意として「避妊を徹底する」ことだった。

なぜ、そこまで避妊にこだわったのか。

それは、私が彼の人生の“邪魔”になることを、何よりも恐れていたから。

別れ話になったときに「妊娠した」と告げて相手を引き止める女性を、私はどうしても理解できなかった。

気持ちが分からないわけじゃない。

不安も、恐れも、愛されたい想いも理解できる。

でも、その言葉の多くは、彼を失いたくないがための“嘘”でしかないと私は感じていた。

たとえ本当だったとしても、結局うまくいかずに壊れてしまった人たちを、私は何人も見てきた。

既婚者だと知っているのに、どうして自分の身を守ろうとしないのか。

どうして責任をすべて相手にだけ押し付けてしまうのか。

「もしかしたら結婚してくれるかもしれない」

そんな淡い期待が、どれほど危ういものか。

そんな奇跡は、ほとんど起きない。

むしろ私は、そこに身勝手さを感じてしまう。

なぜなら、その選択で傷つくのは彼一人ではないからだ。

彼の家族も、子どもたちも、みんな巻き込まれて深く傷ついてしまう。

だから私は決めた。

そこだけは、絶対に踏み越えないと。

どんなに彼を愛していても、どんなに心が揺れても。

それだけは、私が自分に課した最後の一線だった。

私が選んだ避妊法

前職の頃から、私は定期的に産婦人科に通っていた。

そこで低用量ピルを処方してもらい、飲み続けている。

コンドームだけに頼るよりも確実だし、生理周期を安定させるなど、体にとってのメリットも多い。

不倫という関係は心が揺れることが多い。

だからこそ、せめて体の管理くらいは自分で確実にしておきたい・・・そう思っていた。

退職してからはオンライン診療に切り替え、今も服用を続けている。

彼も知っている避妊

避妊していることは、彼も知っている。

でも私は「絶対に大丈夫」なんて決して言わなかった。

安心させすぎることはしたくなかったし、万が一を軽く扱って彼を“騙す”ようなこともしたくなかった。

だから私は、ただ静かに、自分の意思でピルを飲み続けていた。

それが、彼への誠実さであり、同時に自分を守るための最低限のけじめだった。

避妊は二人の責任、だけど・・・

本来なら、避妊は二人で向き合うべき責任だと思う。

けれど現実には、女性が主体的に守るケースの方が多い。

特に不倫関係では、男性が避妊に無頓着なことも少なくない。

だから私は、彼に任せるのではなく、自分で選び、自分で続けることを決めた。

それが、私なりの覚悟だった。

同じ思いをしているあなたへ

もし今、あなたが私と同じように“未来のない恋”をしていて、

それでも少しでも長く続けたいと願っているなら・・・。

どうか、避妊だけは絶対に怠らないでほしい。

避妊は、あなたの体と人生を守るもの。

そして同時に、彼の家族や周囲の人を、これ以上深く傷つけないための最後の一線でもあるから。

次回予告


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