この物語はシリーズでお届けしています。
▶ 第1章:出会い から読む
「ここまで来てしまった」
そう気づいたときには、もう戻る道は閉ざされていた。
彼との関係は、ただ深まるばかりだった。
table of contents
引き返せない距離

気づけば、私たちの距離は「恋人未満」でも「お客と嬢」でもなくなっていた。
彼の声を聞かなければ落ち着かないし、会わない日が続くと、理由もなく不機嫌になる。
そんな自分が怖かった。
ある夜、彼から「ちょっと会える?」とだけ書かれたLINEが届いた。
時計はもう22時を回っていたけれど、私は迷わず家を飛び出した。
タクシーの窓から流れる街の灯りが、妙に鮮やかに見えた。
ホテルの部屋に入ると、彼は少し疲れた顔をしていた。
「どうしたの?」と聞いても、首を振るだけ。
ただ、黙って私を抱きしめてくる。
その強さに、私の胸の奥が熱くなった。
もう、戻れない。
その瞬間、はっきりとそう思った。
以前は「彼の家庭」や「周囲の目」が、私を踏みとどまらせるブレーキだった。
でも今は違う。
そのすべてを知っても、彼の隣にいたいと思ってしまう。
自分の中の罪悪感が、日ごとに薄れていくのが分かった。
「明日も会える?」と冗談めかして聞くと、彼は少し笑って「会いたいけど、仕事だな」と答える。
その言葉だけで十分だった。
会える日が限られているからこそ、会えた夜が輝く。
この関係はきっと、長くは続かない。
それでも、今は終わらせる気なんて、これっぽっちもなかった。
次回予告
「もう戻れない」――その事実に怯えながらも、彼を求める心は止まらない。
次回「逢わない理由が見つからない」――理屈よりも感情が勝つ瞬間。
▶ 次の記事:逢わない理由が見つからない