「逢わない理由が見つからない」

この物語はシリーズでお届けしています。
第1章:出会い から読む


会わないほうがいい。

そう頭では理解していたのに、心は必ず彼のもとへ向かってしまった。

table of contents

逢わない理由が見つからない

彼と会うことに、もう特別な理由はいらなかった。

最初は「お客様」として会う日を楽しみにしていた。

その次は「恋人のような時間」を過ごすために会っていた。

でも今は、ただ・・・会わない理由が見つからないから、会っている。

LINEで「今から会える?」と送れば、彼は大抵「いいよ」と返してくる。

それだけで、心の中の曇りが晴れる。

日常のすき間に彼が入り込み、その存在が私の中で当たり前になっていた。

ある休日、特に予定もなかった私は、なんとなく彼の顔が見たくなった。

「暇?」と送ると、数分後に「迎えに行く」と返ってきた。

助手席に乗り込むと、彼は何も聞かずに車を走らせる。

行き先なんてどうでもよかった。

ただ、同じ空間にいられることが嬉しかった。

夜、別れ際に彼がぽつりと言った。

「なんかさ、会わない日って損した気分になるよな」

その言葉に、胸の奥がじんわりと熱くなる。

私もまったく同じことを思っていた。

会わない理由が見つからない・・・それは、理性が少しずつ薄れていく合図だった。

罪悪感も、常識も、彼の前では意味を失っていく。

ただ、また会いたい。それだけだった。

次回予告

会うたびに深く落ちていく。
会わない理由なんて、どこにも見つからない。
次回「自由と依存のあいだ」――愛と執着の境界線を彷徨う。


table of contents