「静かなる決断」

この物語はシリーズでお届けしています。
第1章:出会い から読む


長く続けてきた仕事に未来は見えなかった。

彼への後ろめたさと、自分の心の声に押されて、私は静かに辞めることを決めた。

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静かなる決断

夜明け前の街は、まだ眠っているように静かだった。

私は駅までの道を歩きながら、自分の中で答えを出していた。

この仕事を、辞めよう。

長年続けてきた夜の仕事

気がつけば、もう未来を描くこともできず、続けていく理由も見つからなくなっていた。

稼ぎは悪くない。

それでも、心の奥に積もる疲れは、金額では測れないほどになっていた。

彼と出会ってから、その感覚は加速した。

笑顔で接客しながらも、胸のどこかで彼の顔を思い出す。

「お客様」としてではなく、大切な人として。

そんな気持ちを抱えたまま、他の男性と向き合う自分に、後ろめたさを感じずにはいられなかった。

辞める理由を、わざわざ彼に伝えるつもりはない。

彼のために辞めるわけじゃないし、見返りを求めたいわけでもない。

ただ、自分の人生を、自分の選択で歩きたかった。

そう決めた瞬間、胸の奥にあった重石がひとつ外れたような気がした。

不安もある。

でも、それ以上に、静かで深い覚悟が心に満ちていた。

駅のホームに立ち、夜明けの空を見上げる。

淡い朝焼けの向こうに、これからの自分が待っている気がした。

次回予告

新しい自分を選んだ瞬間、心は軽く、そして不安に満ちていた。
自由と依存、その狭間で揺れながら。
次回「引き返せない距離」――二人の関係はさらに深まっていく。


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